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仙台地方裁判所 昭和23年(行)43号 判決

原告 渡辺勇之進

被告 宮城県知事

一、主  文

被告が別紙目録記載の山林原野について、昭和二十三年十一月二十四日原告に対し買収令書を交付して為した買収処分は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として訴外宮城県農地委員会は昭和二十三年三月二日原告所有の別紙目録記載の山林原野について買収計画を定め、同月十八日公告し、被告は昭和二十三年十一月二十四日原告に対し買収令書を交付した。

しかしながら原告は田一反七畝歩、畑三反歩を耕作するに過ぎない貧農なので、数年前から本件山林原野の開墾を企て既に五反歩を開墾し、残りの部分を薪炭林として利用しておる。従つてこれを買収されると原告は生活の基盤を失うことになる。又他面本件山林原野の全部が解放されて開墾されてしまうと附近水田三、四十町歩はその水源を涸渇し潅漑に支障をきたす。かように原告の生活や農業生産に影響のある山林原野を買収するのは違法であるから、買収処分の取消を求める為め本訴請求に及ぶと述べ、

被告の主張に対し、

一、被告は原告が昭和二十三年十二月十日附請求の趣旨及び被告変更申立書を以て為す申立は請求の趣旨及び被告の変更になるというけれども原告が同年八月五日附訴状を以て求めるところは本件山林原野買収の取消で買収計画の取消を求めるのではない。当時においては、未だ買収令書の交付はなかつたけれども、原告は宮城県農地委員会が買収計画を定めたのを見て、それで買収はすんだものと考え、訴状のような請求をしたにすぎず請求趣旨及び被告変更申立書は原告の請求を明確にし、被告を変更したのである。

しかして自作農創設特別措置法(以下自創法と称する)関係の訴訟は、従来その経験にとぼしい結果屡々被告と為すべき行政庁を誤ることがある。従つて弁護士でない原告がこれを誤つたからと言つて故意又は重大な過失があつたとは言い得ない。

二、仮に前記申立が請求の変更になると解されたとしても自創法による土地の買収は、買収計画の樹立から買収令書交付に至る迄の一連の段階的処分の連続である。原告が本訴において請求の基礎とするところは一貫して本件未墾地は買収してはならないというのであるから右請求の変更は請求の基礎を同じうする。而して右請求の変更に伴つて被告を誤つたことになつたのであるから被告の変更も適法である。

行政事件訴訟特例法第七条に被告とすべき行政庁を誤つたときとは客観的に被告を誤つたときのみではなく、主観的に訴えようとした被告を誤つた時にも許さるべきで、かゝる変更は訴訟の繋属中差支ない。

三、被告は訴の変更は新訴の提起となるから訴の変更も亦新訴の提起と同様に訴の提起期間を遵守すべきであると言うけれども本件の様に原告の請求の趣旨変更が許されるものとすれば新訴提起にはならないから出訴期間を徒過することはありえない。と述べ、

又被告の、変更前の本訴において原告は本件買収計画の取消を求めていた。しかも、原告は異議訴願の手続を経ないから右訴は不適法である、との主張に対し、原告は本件買収計画について昭和二十三年四月一日異議申立を為したけれども、訴外宮城県農地委員会が、原告を入植せしめる形で、原告に二町歩を与える、と約したのでその実行を信じて右異議の申立を取下げた。しかるに右取下の後に至つて右約定の実行は不可能であることがわかつた。従つて右異議申立の取下は要素の錯誤に基き無効である。

と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、

本案前の主張として、原告は、昭和二十三年八月九日訴外宮城県農地委員会を被告として昭和二十三年三月二日定めた買収計画の取消を求める訴を提起し、昭和二十四年一月二十日請求を被告が昭和二十三年十一月二十四日買収令書を交付して為した買収処分の取消を求めることに、被告を宮城県知事に変更したのであるが、右請求及び被告の変更は次の理由によつて違法である。

(一)  右請求の変更は被告の変更を伴うから請求の基礎に変更がある。

(二)  本訴は初め買収計画の取消を求めていたのであるからその被告をその処分庁である訴外宮城県農地委員会としていたことに何の誤もなく、請求を変更した当然の結果として被告をその処分庁たる宮城県知事としなければならなくなつたのであるから原告は最初の訴においても、後の訴においても被告を誤つていない。仮りにこのような場合に尚被告を誤つたと言いうるとしても、原告に故意又は重大な過失がある。

(三)  仮りに右のような場合にも請求趣旨及び被告の変更が許されるとしても、請求の変更は旧訴を取下げ、同時に新訴を提起するものであるから、右請求の変更は、変更後の請求についての提訴期間内になされなければならない。しかるに本件買収令書が原告に交付されたのは昭和二十三年十一月二十四日、原告が請求趣旨及び被告変更の書面を提出したのは昭和二十四年一月二十日であるから右請求の変更は、変更後の請求についての提訴期間経過後に為された違法がある。

(四)  仮に以上の主張が全部理由がないとしても、買収計画を定めることゝ買収令書を交付することゝは別個の行政行為である。而して本件買収計画は異議訴願がなく法定の出訴期間を経過し確定した。したがつて買収処分の取消を求める訴において、買収令書の交付に関し違法の点を主張するは格別買収計画についての違法を主張することは許されない。

而して、請求及び被告変更前の訴は左の理由により違法である。

(イ)  昭和二十三年八月九日に提起されたのであるが、本件買収計画は同年三月二日に定められ、同月十八日に公告されたから、右訴は提訴期間経過後に提起された。

(ロ)  訴の提起前異議訴願の手続を経ていない。この点について原告が昭和二十三年四月一日異議を申立て、同年七月二日之を取下げたこと、右取下前宮城県農地委員会が原告に対し、本件山林を買収した後二町歩を与えると約定したことは之を認める。しかしながら、それは当時本件山林附近において平均開拓反別は凡そ二町歩となる予想だつたので、平均反別を与える意味において二町歩を与えるといつたのにすぎない。その後平均反別が一町五反と定つたので、前記農地委員会は原告に右反別を与えるといつたところ原告はこれを拒絶したのであるから、右異議の取下について錯誤はなかつた。と述べ、

本案について、原告主張の事実中本件山林原野はもと原告の所有であつて、原告主張の日に、宮城県農地委員会は、これについて買収計画を定めて公告し、被告が原告主張の日原告に対し買収令書を交付したことは認めるが、その他は否認すると答えた。(立証省略)

三、理  由

本案前の主張に対する判断

本件訴は昭和二十三年八月九日原告が宮城県農地委員会を被告とし、「被告は別紙目録記載不動産に付き昭和二十三年三月二日決定した買収は取消す、訴訟費用は被告の負担とする」、と記載した訴状を提出して提起され、その最初に為すべき口頭弁論期日たる同年十二月十日午前十時第二回の口頭弁論期日において、原告は「同日附書面に基いて被告と請求の趣旨を訂正す」と述べ、昭和二十四年一月二十日被告を宮城県知事に、請求の趣旨を「被告が昭和二十三年十一月二十四日原告に対し買収令書を交付して為した別紙目録記載山林の買収を取消す、訴訟費用は被告の負担とする」、との判決を求めることに各変更すると記載した昭和二十三年十二月十日附「被告及び請求の趣旨変更申立」書を提出したことは記録中の訴状昭和二十三年十二月十日午前十時の口頭弁論調書、前記変更申立書により明かである。

而して、昭和二十三年三月二日本件山林について宮城県農地委員会が買収計画を定め、同月十八日その公告を為し、同年十一月二十四日被告が原告に対し原告主張の買収令書を交付したことは当事者間に争がない。

原告は右訴の提起後請求の趣旨変更の申立をしたけれども、それは、最初の訴を明確にしたゞけで、右申立は訴の変更にならないと主張するけれども、(イ)本訴提起当時未だ買収令書の交付がなかつたこと、(ロ)原告が買収計画が定められると買収計画そのものを買収処分と誤認してその取消を求めるために本訴を提起したと主張するその態度、(ハ)その他本件口頭弁論の全趣旨から認め得べき諸事情に徴し、原告の提起した訴は買収計画の取消を求めるものであつたと認めるべきである。従つて、原告の右申立は請求の変更になるといわなければならない。

一、昭和二十三年八月九日原告が訴状を提出して為した訴について、

(イ)  異議の決定及び訴願の裁決を経なかつたことは違法でない。

原告が本件訴の提起について異議の決定を、従つて又訴願の裁決を経なかつたことは当事者間に争がない。

而しながら、原告は昭和二十三年四月一日本件買収計画について異議を申立てたこと、その後原告と宮城県農地委員会との間に本件山林原野を買収してもその内二町歩を入植の形式で原告に与えると言う示談が成立したため、原告は同年七月二日右異議申立を取下げたことは当事者間に争がなく、原告が右異議の申立を取下げたのは右示談の履行を信じた結果であることは、原告本人尋問の結果によつて明かであるし、証人蒔田康一、篠恒彦、橋元義雄の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告が異議の申立を取下げた後になつて、開拓計画の上で平均一町五反歩以上を割当てることは不可能となり、このため昭和二十三年七月十日頃前記示談は決裂してしまつたこと、を認めることができる。

而して、証人橋元義雄、篠恒彦の各証言によれば右二町歩は、開拓計画においてその頃入植者一戸に対し予定されていた割当面積であることを、又原告本人尋問の結果によれば、原告は前記示談の当時右の事実を知つていたことを認めることができる。被告は右は単に開拓計画上の平均面積を示す趣旨であつたと言うけれども、証人篠恒彦の証言中之に符合する部分は信用できない。他には之を認めるに足る証拠がない。

以上認定した事実によれば、原告が本件異議の取下を為したのは示談の実現を信じた錯誤に基くと認めるべきである。けれども、右錯誤に係る事実は、異議申立の取下そのものの内容をなすものではなく、他に抗争する手段の残されていた本件において特に当事者が右示談を以て、異議申立の取下について、その要素となす意思であつた、とは認められない。

けれども、これがため、原告は異議申立の期間を経過し、既に再び異議申立を為すことができなくなつたことは明かである。而してこのような事情は、行政事件訴訟特例法第二条但書の正当な事由に該ると認めるべきであるから、原告は本件買収計画については、同法条に言う裁決を経ないでも、その取消の訴を提起することができると解すべきである。

(ロ)  提訴期間経過後に提訴された違法がある。

前記事情に徴すれば、原告は、前記示談の内容が実行されないことがわかつた昭和二十三年七月十日から一週間内に本訴を提起すべきであつた(民事訴訟法第百五十九条)のに拘わらず、之を怠り同年八月六日に至つたのであるから、本訴は訴の提起期間を遵守しない違法がある。

二、訴の変更について、

(イ)  自創法による買収手続において、その買収計画について不服あるものは、之に対し異議及び訴願を為すことができ、右異議訴願を経た後買収計画又は訴願の裁決について、その取消の訴を提起することができ、又買収令書の交付後にその買収処分について不服あるものはその取消の訴を提起しうるのであるが、買収計画が違法である以上、買収計画が確定してもその違法は治癒されず、買収処分取消の訴訟においてその違法を攻撃する機会を失わないのであるから、買収計画について存する違法を主張するものは同一理由に基いて買収計画取消の訴、訴願の裁決取消の訴及び買収処分取消の訴の三個の訴を提起しうるのであつて、これ等の訴はその形式を異にするけれども、同一理由に基き、経済的には同一目的で為されるのであるから、実質上国家による買収を阻止しようとする同一の基礎の上に立つ訴であると言うことができる。

本件において原告は買収計画について存する理由に基き、買収計画取消の訴を買収処分取消の訴に変更しようとするのであるから請求の基礎に変更があると言うことはできない。

(ロ)  自創法による未墾地買収手続は都道府県農地委員会が買収計画を定めることに始まり、知事の認可を経て、知事が買収令書を交付することにより完了する一連の行政行為で、これを形式的に見れば個々の行政庁によつて為される別個の行政行為であるけれども、経済的には国家の為す買収と言う目的に統一され、全体として之を見れば、国家の為す一個の買収行為であると言うことができる。従つて、その各段階においてその段階に属する部分を各異つた行政庁が順次担当処理して行く関係は、これを全体として一個の買収行為であると言う見方に立ち之を攻撃する側から言えば、取消の目的となつている買収行為を順次異つた行政庁が承継して行くのと同じ関係にあると云える。訴訟の繋属中に第三者がその訴訟の目的を承継して行く関係と類似の関係にあると考えることができる。

従つて、被告は本件における請求の変更は被告の変更を伴うから請求の基礎の変更になると言うけれども、右のような関係にある場合には被告の変更を伴つても請求の基礎に変更を来したと言うことはできない。

(ハ)  自創法に基く未墾地買収に不服あるものが、その買収計画について異議訴願の手続を為さなかつたゝめ、又は異議訴願の手続は経たけれども、提訴期間を徒過したゝめ、訴によつて買収計画の取消を求めることができなくなつた場合に、買収令書の交付前であるか、買収令書の交付後未だ提訴期間を経過しないときは右買収令書の交付を待ち、又は提訴期間経過前に、買収令書の交付によつて完了した買収処分取消の訴を提起しうるに拘わらず、誤つて、都道府県農地委員会を被告として買収計画取消の訴を提起した場合に、買収計画の取消の訴から見れば被告を誤つたと言うことができないとしても、同一理由に基いて都道府県知事を被告として実質上同一の訴である買収処分取消の訴を提起しうるのであるから、未墾地の買収を阻止すると言う経済的な目的から見れば訴の提起について被告を誤つたと言うことができないことはない。本件において原告は初め宮城県農地委員会を被告とする訴は期間が経過したゝめ提起することができなくなつていたにも拘わらず、同農地委員会を被告として買収計画取消の訴を提起したのであるが、その後買収令書の交付があつたので、被告を変更して宮城県知事を被告とし、之に伴い請求の変更をしなければならなくなつたと認めることができる。

而して、原告は最初弁護士を依頼することなく、自ら本訴を提起したものであるがその提出した訴状の記載内容から判断して、原告は訴訟の経験に乏しく、法律に精通しているものとは考えられないから、被告となすべき行政庁を誤つたことについて故意又は重大な過失があつたと言うことはできない。

以上説明した通りであるから、明文上該当する規定はないけれども、民事訴訟法第七十四条、第二百三十二条及び行政事件訴訟特例法第七条等の趣旨から見て、又訴訟経済の上からいつて本件訴の変更は許されると解すべきである。

尤も、本件訴の変更は、(一)初め提訴期間経過後に提起された不適法な訴を他の適法な訴に変更しようとするものであること、(二)その形式の上から見て、請求及び請求の原因の変更(追加)を含むものであるから、民事訴訟法第二百三十二条、第二百三十五条の準用のあることはまぬがれないと解すべきである。しかるに、原告は昭和二十三年十二月十日の口頭弁論期日に口頭を以て、「本日附書面にもとずいて被告と請求の趣旨を変更する」、と陳述したけれども、変更後の訴についての提訴期間(昭和二十三年十一月二十四日買収令書が交付された日から一箇月以内)を経過した昭和二十四年一月二十日になつてから、被告及び請求の趣旨変更申立書を提出したのであることは先に説明した通りである。

而しながら、被告は、右口頭弁論期日において、原告が昭和二十三年十二月十日附の書面が未だ提出されていないにも拘わらず同日の口頭弁論において「本日附書面にもとずいて請求及び被告を変更する」、と述べたのに対し、単に「原告の請求が明確にされた上答弁する」、と述べたのみであり、昭和二十四年一月二十四日午前九時の第三回口頭弁論期日においては、原告は右書面に基いて陳述をしないのに、被告は右書面の内容は既に陳述があつたものとして、「原告は前回弁論において被告及び請求の趣旨を変更したが、右変更は請求の基礎に変更があるから許さるべきではなく、且つ未墾地買収決定の取消を求める訴は異議の申立、訴願の手続をしてその決定、裁決等の処分を経た後でなければ提訴できないのに拘わらず、原告はその手続を為すことなく、しかも法定の出訴期間経過後に本訴を提起したのであるから、行政事件訴訟特例法第二条に牴触する違法な訴として却下さるべきである。仮に、被告及び請求の趣旨の変更が許されるとしても、その訴において買収令書の交付に不適法な点があることを理由とするならば格別原告主張のような理由での本訴は失当である」、と述べたのみで、原告が前記口頭弁論期日に書面によらずして、請求及び被告の変更の申立を為したことについては何等異議を述べず、その後昭和二十四年二月二十八日午前九時の第四回口頭弁論期日において初めてその趣旨の主張を為したのであることは前記各口頭弁論期日の調書により明かである。而して以上の事実関係から見て原告は昭和二十三年十二月十日の口頭弁論期日において口頭を以て前記変更申立書の内容と同一の主張を述べたと認めることができるから、被告は遅滞なく異議を述べたと言うことができない(民事訴訟法第百四十一条)。従つて、本件請求及び被告の変更の申立は原告が昭和二十三年十二月十日の前記口頭弁論期日において為した口頭の申立によつてその効力を生じたと言わなければならない。

被告は、仮に請求及び被告の変更が許されるとしても、買収処分と買収計画とは別個の行政行為であるから、買収計画が確定した以上、之に存する理由に基き買収処分の取消を求めることはできないと主張するけれども、先に説明した通り(二、訴の変更について、(イ))買収計画が確定しても、買収処分取消の訴訟において買収計画に存する違法を主張しうると解すべきである。

以上の理由により、本件訴はその提起期間経過後宮城県農地委員会を被告とし、買収計画の取消を求めて提起されたけれども、買収令書が交付された後、之に対する提訴期間内に請求及び被告の変更が為されたゝめ、変更後の請求につき、変更後の被告に対し、適法に繋属したと認めるべきである。

本案についての判断

宮城県農地委員会が昭和二十三年三月二日本件山林原野について買収計画を定め、同月十八日その公告を為し、被告が昭和二十三年十一月二十四日原告に対し買収令書を交付したことは前記の通りである。

原告は右山林原野は附近の水田三、四十町歩の潅漑用水の水源になつているから之を開墾して了うと右水田の潅漑に支障を来すと言うけれども、証人橋元義雄、平田源助の証言だけでは右事実を認めるのに十分でなく、他には之を認めるに足る証拠がない。

しかしながら、成立に争のない甲第二、第五号証、乙第二号証、証人蒔田康一、同平田源助、同橋元義雄の各証言及び原告本人尋問の結果(以上各証拠の内甲第二号証及び原告本人尋問の結果中原告所有田畑の反別の点は採用しない)を綜合すれば本件山林原野は大正十五年頃原告が自作田一町五反を売却しその代りに買入れたもので、原告は現在、昭和二十二年十月頃自創法により売渡を受けた田一反七畝二十九歩、畑五反十九歩を耕作するに過ぎないのに、家族数は合計八名、その内農業に従事することができるものは六名であるから、右田畑だけでは生活の維持が困難な為め終戦後本件原野と山林のうち約三反歩を開墾し、又山林の一部に竹を育生し、その他の部分を薪炭林として利用し、伐採した竹及び薪を売つて一家の生計を維持しており、原告にとつて欠くことのできないものであることを認めることができる。右認定をくつがえすに足る証拠はない。

尤も成立に争のない甲第六号証、同乙第二号証原告本人尋問の結果(後記認定に反する部分を除く、その部分は信用しない)、によれば原告は本件山林の外に四反二畝三歩の山林を所有しておるけれども、その現況は防風林、畑地及び採草地であつて、薪炭林として利用し得るものはないことが認められる。証人篠恒彦の証言中右認定に反する部分は信用することができない。

以上のような次第で本件山林原野は原告家の生活維持の為め欠くことのできない土地で、これを買収されることは既存農家たる原告の経済上重大な影響を来すこと明かであるにも拘わらず、被告において宮城県農地委員会の定めた買収計画に基き右事情を無視して為した本件買収処分は違法と言わなければならない。よつて本件買収処分の取消を求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する次第である。

(裁判官 松尾巖 伊藤正彦 片桐英才)

(目録省略)

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